オカヤドカリ(陸宿借、陸寄居虫)は、熱帯域に広く分布するヤドカリの仲間で、和名の通り成体が海岸付近の陸上部で生活し、オカヤドカリ科にはオカヤドカリ属の他にヤシガニが属する。ちなみにタラバ蟹と花咲ガニはヤドカリの仲間である。
大まかな体の構造や、巻き貝の貝殻を利用して身を守る点については他のヤドカリと同様だが、他のヤドカリが主に海生であまり水上に出ないのに対し、オカヤドカリは名前が示すとおり成体が陸上生活をする。また、陸が生活圏のため、他のヤドカリよりも脚や鋏脚が太く頑丈で、これは同じ科のヤシガニにも通じる。陸上での生活に適応するため、オカヤドカリは貝殻の中にごく少量の水を蓄え、柔らかい腹部が乾燥するのを防ぎ、陸上での鰓呼吸も可能となっている。しかし定期的な水分補給や交換が必須で、オカヤドカリは水辺からそれほど遠く離れる事ができない。
オカヤドカリの正確な寿命はまだ不明ではあるが、一説では10年とも30年とも言われている。他の甲殻類と同様、オカヤドカリも生きている間はずっと脱皮と成長を繰り返すため、長寿のものほど巨大になる。ヤドカリが成長した時には新しい殻に引越しをしなければならない場合もあり。貝殻の大きさは、その入り口に鋏を当てて大きさを測る。
オカヤドカリの仲間はフンをいったん貝殻の中に出し、そこからどのようにして貝殻の外にフンを出しているのかは、まだはっきりとわかっていないが、自分の貝殻の中に水を補給する習慣があるので、水に浸かっている時にフンを流し出しているか、脚で外に掃き出している可能性もある。
1970年(昭和45年)に、小笠原諸島におけるオカヤドカリの個体数の減少を受け、天然記念物として指定された。ただし、この経緯については、オカヤドカリが本州にはほとんど生息していないという物珍しさだけで指定を受けたのではないかとの指摘もある。
その後、1972年(昭和47年)に沖縄県が日本に返還された時点で、南西諸島のオカヤドカリも天然記念物の指定を受けることになったが、当時の沖縄県などではどこにでもいるありふれた生物として認識されており、釣り餌として人気があったことなどから専門の捕獲業者も存在していた。その後、天然記念物として厳格に保護するほどに個体数が少ないわけではないと言う事情もあったために、業者保護の目的で、一部地域の指定業者に限り量を限定することで捕獲が認められるようになった。2006年(平成18年)現在、オカヤドカリは観賞魚販売業者などを通じて主にペットとして購入することができるが、これらは上記の指定業者によって捕獲された個体がほとんどである
大手のおもちゃ会社が飼育セットをオモチャとして発売し、その存在を広く知られるようになりペットとしての地位を確かにするが、分類学上は甲殻類の動物で、動物の愛護と管理に関する法律の適用を受けないため数々の問題が発生した。その中でも最大のものは、主役である筈のコンパニオン生物がセットの部品のように、透明なプラスチック容器の中にパックして売られ、パッケージから出すと商品でなくなるからと、小売店でも何も出来ず乾燥したり貝殻から飛び出て死んでいくのをただ見ていたという。また商品のセットそのものが本格的飼育には堪えぬ粗末な内容で、ペットとして長期飼養することを前提として作られていない。
そして「ポップコーンが大好き。水道水で飼える」と、殊更簡単に飼えると強調し、それほど高くないから試しに・・、或いは、殻が奇麗だから・・という衝動買い層をターゲットにする戦略。飽きたら捨てる。その前に長く生きられない。
また、この商品がきっかけで、流行の珍ペットとしてメディアが取り上げ、「簡単に飼える」「インテリア感覚で」等、飼育に関して間違ったイメージが流布された。その結果、ペットショップ、スーパーマーケット、ホームセンター等取り扱う店舗が増加したものの、やはり販売員の無理解が祟り、「冷房が効きすぎ、乾燥した店内で瀕死」「小さな飼育ケースに数十匹も詰め込まれている」「餌も水もない状態で放置されている」等の報告が後を絶たない。行政の反応は極めて鈍く、天然記念物の看板とはほど遠い扱われ方の末、死に至る生体は現在も後を絶たない。
ヤシガニを水に浸けると溺れることが有名だが、オカヤドカリも水に浸けると溺死するというのは明らかな誤りで。水場さえあれば自ら水の中に入っていくこともあり、また自然界でも海の中に入り海水を補給する。しかし溺死することは無いものの、採餌や脱皮は海水中では行えないため、水中で飼育し続けることはできないのだが、「水なし簡単」を謳い文句にしていたこともあり、そのデマを補強するために「オカヤドカリは水に浸けると溺れる」という誤りを積極的に利用していた節がある。
また、ヤシガニを含むオカヤドカリ科の生き物の中に群れで生活するものはいない。産卵のために海岸に集まってきたところをTVなどで放映することが多く、実物の生態を見たことの無い人々からは、群れでウジャウジャいる様に誤解されている。数年前にある販売業者が、「群れで生活しているのである程度の数で飼った方が良い」と、大量に売り捌くことを目的としたデマゴギーを流したことがあり、ヤラセか成り済ましか取り巻き客の自発意志によるものかは不明なものの、Blogや2ch、BBS等で凄まじいネットキャンペーンが繰り広げられた。
ヤシガニと同様オカヤドカリも木登りの名手であり、小さい体から予想もつかないほど高い木に登り、飼育上では脱走の名手でもある。本作者も飼っているオカヤドカリが夜中に脱走し、枕元の壁をカリカリ登っている音で目が覚めたことがある。また、本作者は幼少のころからヤドカリが大好きで、何も入っていないお気に入りの巻貝にヤドカリが入っていると信じ、毎日のように巻貝を針金でほじっていた経験有り・・・。
本作品は自在置物の新しい道を模索した作品で、ただ各関節が自在に稼動するだけでなく、その生き物が持つ特徴的な生態を表現出来ないものかと、貝に隠れるところまで再現した。また、ドイツで知り合ったジュエリーアーティスト David Bielanderがいたく気に入ってくれて、作品の交換をした経緯も持つ。